プロが語る/My TREHA®

プロフィール

林雅彦 ガトー・ド・ボワ(奈良・西大寺)
林雅彦
ガトー・ド・ボワ(奈良・西大寺)
東京成城マルメゾンを経て
2001年 株式会社エルクレア フランス菓子ガトー・ド・ボワ 代表取締役社長就任
2002年 株式会社林原 トレハロース洋菓子用途テクニカルアドバイザー
2019年 『現代の名工』
2021年取材

林雅彦氏によるレシピは、会員ページ内「トレハ®レシピ集-洋菓子-応用編-ピックアップレシピ」に掲載しています。

※現ナガセヴィータ株式会社

トレハ®との出会い

トレハロースを使い始めたのはかなり早かったと思いますね。京都にあった林原関連のホテルのパティシエから聞いたのが最初です。甘さの低い糖だということで、なんとなく使っていました。本格的に使い始めたのは、林原の洋菓子でのトレハロース開発に関わるようになってからです。毎月岡山にあるラボに行って、検討した内容を再現してレポートを発行していました。

僕は普通にお菓子に入れてみてお菓子に起こった変化とか、感想を担当開発者の人にお伝えするのですよ。そうしたら、糖の専門家の皆さんですから、どうしてそんな変化が起こるのかって科学的な視点で検証を始める。次の月にはそれが証明されたりして、本当に楽しいし、勉強した時間でした。
一方通行じゃなかったのが特に面白かった点だと思います。

非着色性と低甘味が見事にはまったフィナンシェ

例えば最初に取り組んだのはフィナンシェだった。林原ってそれまで和菓子は得意だったけれど、洋菓子、特にフランス菓子の知見はほとんどなかったから、まずは言葉を覚えてもらうところから始めたんですよ。フィナンシェは簡単だけど、砂糖をたくさん使って火をしっかり入れようとすると周りが焦げてしまったり、甘さを抑えようとして砂糖を減らすと中がぱさぱさになったり、バランスがなかなか難しいお菓子。トレハ®の非着色性と低甘味が見事にはまって、更には油臭くならないメリットまであって、シンプルだけどすごく効果的だなって思いました。

メレンゲの安定性

次に取り組んだのが、メレンゲ。色々話し合って結局皆が共通して使って、品質を安定させたがっているのはメレンゲだってことになった。ガトー・ド・ボワではその時も普通にメレンゲにはトレハ®を使っていて、甘さを抑える意味合いだったけれど、色々調べてみると、砂糖だけの時より安定性がとても高いことがわかった。気泡安定性なんて言葉がついて(笑)林原の人ってすぐ難しいことを言い出す。でも本当科学的なんだなって思ったのは、イタリアンメレンゲでシロップの煮詰め温度の話になった時。開発に加わっていたパティシエが「僕はトレハ®のメレンゲ嫌いなんだよね。ポクポクするでしょ。」って、そう、硬いメレンゲになるって言ったんですよ。そしたら林原の人が、「あー、シロップの煮詰め温度を少し下げた方がいいかもしれませんね」って。

やってみたら本当にびっくり、甘さが下がって柔らかいメレンゲができて、かつ泡が消えにくい。当時コンクールに出ていた人も、「コンクールにはもってこい!立て直しがきくイタリアンメレンゲ!」って大喜びだった。普通に使うメレンゲだけじゃなくて、フルーツピューレを入れて煮詰めたシロップを使った味のついたメレンゲを作ってケーキのデコレーションにした。随分講習会で作ったのを覚えてますよ。

求めていたフルーツ感で応用範囲の広がったパート・ド・フリュイ

パート・ド・フリュイやギモーブも面白かった。トレハ®って結晶性が高いから、単純に思うだけトレハ®を入れたらジャリジャリに結晶が出てしまう。そこに登場したのがハローデックス®で、トレハ®の結晶を抑えて、保形性も上がるから、まさに求めていたフルーツ感たっぷりのパート・ド・フリュイができた。この開発に出会うまでは、日本ではパート・ド・フリュイは売れないって思っていたんだけど、今じゃガトー・ド・ボワでも定番の商品になった。飾りとかにも使うし、本当に応用範囲が広い。

本当にトレハ®って語りつくせない魅力があるんですよ。それを集大成でまとめたのがトレハ®ブック。パティシエと糖の開発者が組んだから本当にいい仕事ができたと思う。焼き菓子なんかも本当にいいし、グレーズも抜群。旅するお菓子ができたのもトレハ®のおかげ。あーこんなに糖って可能性があるんだって感じて、砂糖の意味に立ち返った。トレハ®を知ったおかげで、砂糖をちゃんと理解できたっていうのも大きかった。

今世界に広がろうとしているトレハ®を見ていると本当に開発時期が懐かしいですね。2019年に現代の名工をいただいて、トレハロースの応用開発が評価されたと聞いた時本当に嬉しかった。
洋菓子の応用開発に関われたこと、貴重な時間だったと思います。

※林原は2024年4月1日にナガセヴィータ株式会社へ社名変更をいたしました。インタビューは当時の社名で記載しております。