トレハロースはきのこ類や酵⺟など、私たちの⾝近な⾷品の中にも存在する糖質です。⽢さは砂糖の約40%と低⽢味でキレの良い⽢味質を有し、⼆糖類の中ではもっとも安定な糖です。
⾷品加⼯にトレハロースを利⽤すると、でん粉の⽼化抑制、たんぱくの変性抑制、脂質の変敗抑制やマスキングに効果を発揮し、出来⽴ての⾵味・⾊彩・⾷感の維持向上が期待できます。また、冷凍ダメージや⻑期保存による味や⾷感の劣化を抑制し、フードロス削減にも貢献します。
現在、トレハロースは菓⼦などの⾷品だけでなく化粧品、医薬品、農業、畜産、⼯業⽤途等幅広く使⽤されており、海外での利⽤も増加しています。
トレハロースはどこにあるの?
トレハロースは「太古の昔から地球上に存在」しており、古くから⽣命とかかわっています。クマムシ、ワムシなどの微⼩動物、イワヒバなどの植物が砂漠などの厳しい環境の中で⽣き続けられるのは、トレハロースが⽣体内に存在するためであるといわれています。
また、トレハロースは私たちがいつも⼝にしている多くの⾷品の中に含まれています。なかでもきのこ類に多く含まれており、乾燥重量当り20%以上にも及びます。酵⺟にもきのこ類と同程度に含まれ、パンやビールなど発酵⾷品を介してトレハロースを摂取していることになります。摂取したトレハロースは、⼩腸でブドウ糖に分解され、吸収されます。
トレハロースの消化吸収については後述します。
食物中のトレハロース
昔から科学者の注⽬を集めていた
トレハロースの存在が初めて学術的に明らかになったのは1832年のこと。ウィガーズが⻨⾓中に発⾒したのです。そして1859年には、バーサローによって、トレハラマンナ(ペルシャ地⽅に⽣息する象⿐⾍が作るもの)から分離されトレハロースと名付けられました。
以来、トレハロースが持つ不思議な⼒が様々な分野に応⽤できるのではと期待され、研究が盛んに⾏われました。しかし、トレハロースを抽出するのは難しく、抽出できても価格が1kgあたり3〜5万円もする⾼級品。トレハロースを⼤量⽣産する⽅法が⾒つからないかぎり実⽤化は不可能とされていました。
1994年、当社は世界で初めて微⽣物・酵素技術を使った「でん粉からの量産」に成功。価格が約100分の1にダウンしたことにより、利⽤範囲が広がりました。
一滴の水で生き返る生物
人間をはじめとする生物は、水分がなくなると生き残れません。しかし昔から、完全にひからびて死んだような状態でも水をごく少量加えただけで生き返る生物の存在が知られていました。たとえば、砂漠に生息するイワヒバという植物、クマムシ(緩歩動物)、酵母などは乾燥して何年たっていても水さえ加えれば生き返ります。この復活現象は長年の間、「不思議な現象」として原因が分からぬまま扱われていました。
近年になってこの不思議な「復活現象」には、生物の細胞内にある糖が大きく関わっているということが分かりました。その糖こそ「トレハロース」なのです。トレハロースが水に代わって細胞を守る働きをしているといわれています。
干し椎茸がもどるのもトレハロースのおかげ
もっと身近な例を挙げてみましょう。干し椎茸は何カ月おいた後でも、お湯あるいは水に浸すと、元の状態にもどります。これもトレハロースの働きのためといわれています。椎茸に含まれているトレハロースが多ければ多いほど、より元に近い状態になることが実験でわかっています。
昆虫はトレハロースをエネルギー源に
バッタ、イナゴ、ハチなどの昆虫は、長い距離を飛んだり、長い時間跳ねたりすることができます。小さな体のいったいどこにそんなエネルギーが?と感心してしまいます。これらの昆虫の体液中にはトレハロースが蓄えられていて、これを必要な時にブドウ糖に変えています。人間など哺乳類の血糖はブドウ糖ですが、これら昆虫の血糖はトレハロースというわけなのです。
トレハロースの消化吸収
食品や飲料とともにお腹に入った糖質は、腸管にある酵素で分解され吸収されます。腸管にはいろいろな酵素が存在し、例えば、砂糖(スクロース)はスクラーゼという酵素によってブドウ糖(グルコース)と果糖(フラクトース)に分解されて腸管から吸収されます。麦芽糖(マルトース)はマルターゼという酵素によってブドウ糖に分解され吸収されます。
そして、トレハロースについても、トレハラーゼという腸管に存在する酵素によってブドウ糖に分解され吸収されます。
※ヒト腸管でのトレハロースを分解する能力は個人差があるため、体質によって、一度にたくさん摂りすぎると一時的におなかがゆるくなることがあります。
上述のとおり、トレハロースは腸管で消化吸収されますが、消化吸収パターンが麦芽糖やブドウ糖の場合と少し異なることがわかりました。
ブドウ糖を食べると急激に血糖が上がり、30分後ぐらいにピークとなり、その後急激に低下します。ところが、トレハロースの場合は、血糖値のピークが低く、血糖上昇・降下が緩やかです。(グラフ1参照)
インスリン分泌も血糖のパターンと同様の穏やかな動きを示し、トレハロースはインスリン刺激の少ない糖質といえます。(グラフ2参照)
健康な日本人を対象に、グルコースまたはトレハロースを25 g経口摂取した場合の血糖値と血中インスリン値の推移を比較しました。試験は第三者機関へ委託して実施しました。